小説ピチモ物語

のあにゃん、エースへの道!

福原 「ねーねー、聞いて。みんな集まってるし、ちょっと次のエースでも決めよっか?」

突然、現エースである遥が切り出したため、他のピチモたちは一斉に静まり返った。

ややあって、莉子がみんなを代表するように口を開く。

関根 「えーっ? まだ、はるかがやればいいのに」

そう言って莉子は、やや硬い表情のまま、遥を指差した。

続けて。

関根 「はるかファイト☆」

いつぞやのPichile本誌の 「りこはる原宿デートロケ企画」よろしく励ました。

しかし、遥の意志は、みんなが思うより固い。

福原 「いや〜。うちも、もう高2だし、事務所も移籍したし、女優として本格的にがんばりたい時期だし。そもそも、21回連続表紙とか、もういい加減つかれたよー。だれか、うちの代わりにエース、やってくれないかなー?」



と、ここにいたる一連の流れを、表面上は興味なさそうに平静を装いつつ、実は熱心に聴き入っていた、ひとりの少女がいた。

そして、その少女――乃愛は、心の中で強く、だれかが自分を推挙してくれないかと願った。

あれは、いまから2年前。小6で念願のピチモになって以来、誰よりも深いPichile愛Pichile愛を自負する乃愛は、自分以外に、次のエースにふさわしいピチモはいないと、密かに確信していたのだ。



するとその時。

美吹が力いっぱい挙手しつつ、トレードマークの大きな声を上げる。

三田 「はーい!はーい!」

指名されるまで、挙手をやめそうもないため、その勢いに押された遥が、仕方なく指名してあげる。

福原 「い・・・いぶちゃん、どうぞ」

美吹、大きく息を吸って。

三田 「私は、モカちゃんが適任だと思いまーす!!」

相変わらず、無駄に大きな声だ。

しかし、その瞬間。

意外にも、みんなの間から、自然な感じで拍手が沸き起こった。

たしかに萌歌といえば、ほんわか優しい性格の持ち主で、先輩・後輩問わず、誰からも好かれている。

また、ピチレ外でのお仕事も多く、なにより、 「東宝シンデレラ」出身という毛並みの良さや、女優系事務所に所属することから来る上品さも、その人気の秘訣だ。

よって、そんな萌歌のピチモ内における影響力は、とくに、普段から何かと相談に乗ったり、世話を焼いたりして気にかけてあげている後輩たちにあって、実際、かなり大きい。

 「うん、萌歌ちゃんがエースなら納得できる。萌歌ちゃんこそエースにふさわしい」

さきほどの自然な拍手には、そんなピチモたちの心情が現れていたのだ。



すると、すかさず、莉子もこれに調子よく同意して。

関根 「まぁ、なにわともあれ、確かに次のエースを決めとく必要もあるかもしれないですね。その点、モカちゃんなら、可愛いし、やさしいし、気が利くし、がんばり屋さんだし。なにより最近は、女優さんとしても活躍してるし。うん! 莉子も、いいと思うのです。なにか、ピチレを変えてくれそうな気がしますね☆」

さてここで、思っても見ない展開となり、乃愛は、とりあえず自分も、なにか発言したほうがいいのか、迷う。

正直、次期エースを狙う身として、強力なライバルになりうる萌歌を推したくはなかったが、現状は多勢に無勢である。

このままでは、満場一致で、あっさり萌歌に決まってしまいかねない雰囲気だ。




と、その時。

これまでずっと黙っていた、肝心の萌歌が、おっとりと静かに口を開く。

上白石 「あのね。せっかくだけど、私はね、乃愛ちゃんがいいと思うよ」

この発言に、一瞬、その場に沈黙が訪れる。

ややあって。

関根 「へっ!? なんで〜? のあちゃんは、まだ中2だし、若すぎるよ〜」

莉子が、腕を組んで、おおげさに首をかしげた。

続けて。

関根 「ここは、モカちゃんで決まりです」

もはや莉子は、すっかり 「萌歌推し」と化している。

一方、乃愛はこの様子を見て、莉子に裏切られた気持ちになった。

なにしろ、この前のピチ撮で一緒になり、その空き時間、乃愛が莉子の背中に抱きつくように覆いかぶさって遊んでいたとき、 「のあちゃんが次のエースになるのは、みんな分かってることです☆」と囁いてくれたのは、莉子自身ではなかったか。

だからこそ、次期エース候補として、表紙を、次世代連載 「スパチャレ」を、さらにはブランドのイベントで全国を回るお仕事や、読者開放日、おまけに「ののじ」のイメージモデルなどを、必死にがんばってきたのだ。

こうした乃愛の心意気は、Pichile本誌の様々なインタビュー企画における、 「ゆくゆくはピチレ引っ張っていく存在になれたら」とか、「表紙をたくさん飾れるようにがんばる!」といったように、とにかくエースを意識した発言の連発に表れている。

そんな乃愛の葛藤を知ってか知らずか。

上白石 「いや〜」

莉子にまで推された萌歌は、それでも改めてやんわりと拒絶する。

上白石 「あのね、りこちゃん。私は、『乃愛ちゃんが若いからダメ!』っていう意見には反対だよ。それに、これ、誤解してほしくないんだけど、私は、なにも乃愛ちゃんが、非オーデでも、他誌からの移籍組でもない、『一般読者でピチモオーディション出身のオスカー所属』っていう生え抜き純系だから推してるんじゃないの。ホント、私は、心の底から、乃愛ちゃんのこと、尊敬できる素晴らしいピチモだと思ってる」

この、萌歌の弁に、他のピチモは一斉に、乃愛の顔を振り返った。

萌歌、続けて。

上白石 「私はね、乃愛ちゃんに『責任感』を見るの。オーディションに受かって、ピチモになって、将来、ピチレを支えていこうっていうね。大好きな甘いものを控え、夜は8時以降絶食。モデルとして、ダイエットに励み、スタイルを維持しようプロ意識をね。だからこそ、若くても、たとえ中2であったとしても、乃愛ちゃんがエースをやるべきじゃないかなって」

普段おとなしい萌歌には珍しく、熱弁を振るった。



すると、これまで黙っていた、舞が律儀に手を上げた。

日達 「あの、いいですか?」

すでに遥は、この話題に飽きたのか、それとも元来の気まぐれからか、交わされる議論を、眠そうに横目で見るだけで、司会の役を務めていないため、自然と、仕切りたがり屋である、ちかが進行する形となった。

荒川 「はい。まーりんしゃん、どうじょ」

モデルとしてはもちろん、ドラマ出演にトークイベント、さらにはアイドルイベントのMCから、ラジオDJにいたるまで、どんなお仕事もソツなくこなす、ピチモいちの優等生、舞の登場だ。

日達 「そりゃ、いずれ、のあちゃんがやることになると思うよ。なんてったって、あたしたち中学組の中で『100質』経験者は、のあちゃんだけしかいないんだから。でもね、今はまだ、若すぎるよ。これじゃあ、ピチモがまとまらない。だからね、ここはひとつ、暫定的に、モカちゃんがやるってのはどうかな?」

乃愛と同期で、大の仲良しとして知られる舞までもが、意外にも萌歌を推薦した。

これに萌歌、あくまでも控えめに反論する。

萌歌 「う〜ん、『乃愛ちゃんだとまとまらない』ってのは、どうなのかな? それ、ちょっと、乃愛ちゃんに失礼じゃない?」

そういうと、萌歌が、チラっと横目で乃愛を見る。

つられて、舞も乃愛を振りかえる。

その瞬間、乃愛は、もはや完全にふて腐れて、下を向いていた。

乃愛は、相方の美吹はおろか、先輩の莉子だけでなく、仲良しの舞までもが、自分をあまり信頼していないことに、ショックを受けていた。

しかも、これに追い討ちをかけるように、萌歌までが、勝手な同情を寄せることも、乃愛のプライドを傷つけた。



こうして、険悪になりかける雰囲気を、とりなすように、ちか。

荒川 「まあ、ですね。今の、まーりんしゃんの発言は、たしかに言い過ぎかもしれませんね。でも、中学生雑誌が次々と休刊になっている現状、『ニコラ』との部数の差の拡大、『ニコ☆プチ』はおろか、『JSガール』にまで抜かれたこととか、いっぱいの問題の全部が、のあにゃん1人の肩にかかるっていうのも、ちょっと無理かなって、ボクも正直、思ったりもしたりするんですね、はい」

発言が途切れ、沈黙が訪れた。

気まずい雰囲気になる。

と、ここで。

恩田 「あのぉ〜、ちょっといいでしょうか?」

ピチモ最年少、恩田さんちの乃愛くんが、遠慮がちに手を上げる。2015年からの新ピチモではあるが、芸歴は長く、そのせいか年少組にもかかわらず、物怖じしない性格の持ち主だ。

ふわふわした頼りない先輩の多いピチモにあって、しっかり者として通っている期待の若手である。

しばらく待っても、誰も指名しないので、第2の乃愛くんは、ひとり勝手に喋り始める。

恩田 「まーりんさんも、ちぃさんも、無理無理って言いますけど、でも、そんなの無理かどうかなんて、やってみなくちゃ、わからないじゃないんでしょうか?」

新人ながら、さすがは芸歴4年を誇るだけはある。なんと、並み居る先輩のお歴々を前に、堂々と言い切った。

しかし、これにちか、さすがに子役の先輩として、さらにはピチモの芸歴ナンバーワンとして、カチンときたのか、冷静に言い返す。

荒川 「ですから、『やってみてダメでした』じゃ、遅いんです」

それでも、乃愛くんは、引き下がらない。

恩田 「あのですね、やってもいないうちからそういう言い方することこそ、失礼だと思います!」

ますます場の雰囲気が悪くなり、再び沈黙が訪れる。



上白石 「はるんちゃん、言いだしっぺの上、エースなんだから、何か言ったらどうですか?」

ここで、萌歌が、冒頭の発言以来、いまだ一言も発していない遥に話を向ける。

すると遥、退屈そうに髪の毛をいじっていた手を止め、仕方ないといった感じで語りだす。

福原 「うーん。そーねー。うちはまあ、やる気のある子がやるっていうのが、やっぱり一番だと思うの。モカちゃんは、非オーデってとこと、グイグイ引っ張るタイプじゃないってとこが嫌われてるけど、でもこれまでずっと真面目にピチモに取り組んでる。表紙もやってるし、100質も経験してる。新連載「ピチスタ」も1番手だったし、なにより映画公開を控え、ゆうみんと対談までした。だから、モカちゃんみたいな子がエースになってくれると、Pichileとしてはいいかもしれないけど、やっぱり非オーデがエースってのは、ピチ読に受けがよくない。一方、のあちゃんは、それこそピチ読出身で、やる気もPichile愛もあるから、読者の受けはすごくいいと思う。ただ、心配な点は、エースとしては若すぎることと、これから成長期に入って、いまのスタイルをキープできるかという点。だから、ここはひとつ、その間を取って、―――まりりちゃんがやるといいのかなって」

一同 「えーっ!?」

遥の話の思いがけないなりゆきに、他のピチモたちはいっせいに顔を見合わせた。ほんわか天然、優柔不断な自由人キャラの本領発揮である。

荒川 「はるんさん、最初は、モカちゃんがいいって言ったくせにぃ!」

他のピチモも、いっせいに非難の声を上げようとした、その時。



<ガタン>



乃愛が、音を立てて立ち上がった。

そして、この日、初めて口を開く。

鶴嶋 「あのですねぇ。のあわですねぇ、エースとかそういうのぉ、やりたくないですしぃ、別にどうでもいいんです。ですから、あとはみなさんでぇ〜、勝手に決めてください」

そう言い放つと、ひとり、編集部の会議室を勢いよく飛び出した。

そして、下りのエレベータに乗り、ドアが閉まっところで、乃愛の頬を、一筋の熱い涙が流れ落ちた。



〜つづく〜